それでも道彦は、のぞみをすてなかった。小手《こて》をかざして、どぎつい太陽の光をさえぎりつつ、なおも峰々へ眼をやった。
 すると、だしぬけに、彼のうしろで、声をかけた者があった。
「おい、お前さん。わしに、力を貸してくれないか」
 そういった声は、聞きなれない外国語であった。


   現われた怪人《かいじん》


「えっ」
 道彦は、おもいがけない外国語でよびかけられ、びっくりして、うしろをふりむいた。すると、そこには、いようななりをした大男が、ぬっと立っていた。
「君は、だれ?」
 道彦は、といかえした。
 毛のふかふかとしたながい毛皮でもあろうかと思うもので、頭の先から足の先までをつつみ、そして顔も、きらきら光る目だけを出したその大男であった。もし彼が、ことばをしゃべらなかったら、ゴリラとまちがえたかもしれない。
「わしか。わしは、氷の中から出てきた人間だ」
「氷の中から出てきた人間?」
「そうだ。あのおそろしい氷河期《ひょうがき》とたたかって、ついにうちかった人間だ。生きのこったのは、わしひとりだ」
 その怪人《かいじん》は、道彦と同じようなことを、自分からいった。彼の話すと
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