、こんなことで、よわい気を出してはならないと思い、げんこをかためると、われとわがあたまをがーんとなぐりつけた。
(……生き残ったのは、先生と自分だけらしいようだ。いや、先生も、このままにしておけば死んでしまうぞ)
 道彦はしっかりしなくてはならないと、自分の心をはげました。なんとかして、先生をたすけること、それから、この大椿事《だいちんじ》を東京へ知らせること、この二つを早くやらなければ、彼のつとめがすまない。彼は、決心をした。どうやら、ここは、ヒマラヤ山脈の高峰らしいが、どこかに、人間はいないであろうか。登山者がいてくれるといいのだが、あるいは山番でもいい。
 太陽は山のはしからのぼって、雪山一たいをぎらぎらとてりつける。道彦は、かたい雪のうえを、いくたびかすべりそうになって、それでもやっとがけのふちまで、たどりついた。そして、谷の方を、おそるおそる見下ろしたのであった。
 雪のほかに、何一つ見えない大雪谿《だいせっけい》が、はるか下の方へのびている。向いの山も、まっ白であって、山小屋はもちろん、石室《いしむろ》らしいものさえ見えなかった。そうでもあろう。ここはよほどの奥山らしい。

前へ 次へ
全17ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング