、こんなことで、よわい気を出してはならないと思い、げんこをかためると、われとわがあたまをがーんとなぐりつけた。
(……生き残ったのは、先生と自分だけらしいようだ。いや、先生も、このままにしておけば死んでしまうぞ)
道彦はしっかりしなくてはならないと、自分の心をはげました。なんとかして、先生をたすけること、それから、この大椿事《だいちんじ》を東京へ知らせること、この二つを早くやらなければ、彼のつとめがすまない。彼は、決心をした。どうやら、ここは、ヒマラヤ山脈の高峰らしいが、どこかに、人間はいないであろうか。登山者がいてくれるといいのだが、あるいは山番でもいい。
太陽は山のはしからのぼって、雪山一たいをぎらぎらとてりつける。道彦は、かたい雪のうえを、いくたびかすべりそうになって、それでもやっとがけのふちまで、たどりついた。そして、谷の方を、おそるおそる見下ろしたのであった。
雪のほかに、何一つ見えない大雪谿《だいせっけい》が、はるか下の方へのびている。向いの山も、まっ白であって、山小屋はもちろん、石室《いしむろ》らしいものさえ見えなかった。そうでもあろう。ここはよほどの奥山らしい。
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