りをとりかこんでいた。そして視界《しかい》は、すっかりとじられてしまった。
「これはいかん。山にぶつからなければいいが……」
と、ひごろおちついた木谷博士が、しんぱいそうに席から腰をあげた。そのしゅんかん、機は、ものすごい音をたてた。そして人々は、あっという間に、てんじょうにほうりあげられた。
「墜落《ついらく》だ。早く機から外へ出ろ……」
 道彦の耳に、だれかの声がはいったが、彼は、その後のことをよくおぼえていない。


   遭難《そうなん》に乱《みだ》れず


 道彦が気がついたときは、彼は、くらやみの中にいた。ガソリンの、たまらない匂《にお》いが、彼の鼻をつよくつきさすので、彼はたまらなくなって、大きなくしゃみをした。
「おお道彦か。気がついたらしいな。どうじゃ、気分は、どこか痛《いた》まないか」
 くらやみの声は、木谷博士《きたにはかせ》にちがいなかった。
「あっ、先生、ぼくは、大丈夫です。しかし、からだがうごきません」
「そうか。お前のからだが冷えないように、ありったけの毛布でくるんであるんだ」
「ああ、そうですか。――飛行機は、ついらくしたんですね」
「うむ、山の斜面《し
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