用意をし、食物をたやさない準備をして、山奥の穴の中にこもったので、ようやくたすかったのだ。いや、たすかって、今日まで生きのびたのは、わしひとりだが……」
道彦の眼は、いつしか熱心にかがやいて、怪人の顔を見つめていた。二十万年前の人類が、どうして今、生きているかふしぎでならないけれど、この怪人の物語《ものがた》る氷河期前後のようすは、どこかで聞いたような話であり、たしかにりくつにあっているのであった。
「さっき、氷から出てきたといったが、氷の中に閉《と》じこめられていたの」
道彦がたずねた。
「そうだ。そんなに用心していたが、だんだんと、寒さが上から下にさがってきて、地下水《ちかすい》がこおりだしたのだ。穴が浅いために、多くの人間は、水びたしになったまま、氷の中に閉じこめられた。わしもその一人だった。しかし、この間、ふと気がついたら、顔の上の氷がとけていたんだ。おどろいたねえ」
「まさかねえ」
「君は、わしのいうことを信用しないと見える。じゃあ、わしが氷に閉じこめられていたところへあんないしてやろう。そこには、まだわしのからだのかっこうがついているくぼんだ氷があるから、それを見ればほ
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