んとうにするだろう。さあ、行ってみよう」
 道彦はまさかと思ったが、怪人が、あまり熱心にすすめるものだから、一しょにいくことにした。怪人は先に立って、たくみに氷の崖《がけ》をおりていった。ときには、道彦をだいてくれたりした。
「ほら、もう、ここからだって、見えるのだ。あの谷底《たにそこ》を見たまえ。わしのからだの形がのこっているじゃないか」
「どこ?」
「ほら、この指の先を見たまえ」
 道彦は、怪人の指す方を見た。どこだかよくわからない。岩かどをにぎっている指先が凍《こお》りついて痛くなった。その痛みは、指先から全身へひろがっていった。やがて、頭がきりきり痛み、そして耳ががんがん鳴りだした。目が見えなくなった。
(あっ、あぶない!)
 と、道彦は、根《こん》かぎりに叫《さけ》んだ。
「おい、どうした。道彦!」
 彼の名をよぶものがある。
 はっと思って、道彦は眼をあいた。すると、そばに、木谷博士の顔が、にこにこと、彼をのぞきこんでいた。
「お前が、あまりうなされているものだからなあ。なにか夢を見ていたね」
 夢? 気がつくと、飛行機は、エンジンの音もすこぶる快調に、おだやかに飛んでいる
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