待った。話をきいていると、それは火星のことじゃないの。火星には、月が二つあるが、われらの地球には、月が一つしかないじゃないか」
「あれっ、あんなことをいってらあ」
 と、その怪人は、あきれたように道彦をながめ、
「君は知らないのだろうか。わしは、この地球に、二つの月があったことを、ちゃんと知っている。今話しているのは、その小さい月がなくなって、大きい月だけがのこるという話さ」
 怪人はじつにへんなことをいいだした。


   おそろしき光景《こうけい》


「信じられないなあ。地球に月が二つあって、その一つがなくなったなんて」
 と、道彦は、いいかえした。
「だって、月が一つなくなったればこそ、地球の上が氷でもって閉《と》じこめられたのさ」
 ふしぎな話であった。そんなことがあっていいものか。
 怪人は、ことばをついで、
「その小さい月が、だんだん下に下りてきてよ、とうとうしまいには、海の水にたたかれるようになったのさ。わしも、それは見たがね。すごい光景《こうけい》だったねえ。月が近づくと、海は大あれにあれて、浪《なみ》は大空へむけて、山よりも高くもちあがるのさ」
「え、ほんとうかね」
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