に満面を朱のごとくにして両腕を頭よりも高く打ちふるわせながら立ち上った。それからのちの会場の混乱は説明する必要がない。教授の一人が『ニュートンの法則を忘れた君は物理学界からただちに破門すべきだ』とか『千古不易の勢力不滅律はどうしてくれるんだ』など、私の耳の近くでどなった。私はいまもその憎悪にみちた教授の顔を憶いだす。次の瞬間に私は襲いかかる潮のごとき群衆の前に気を失ってしまった。私が腕一本と左眼を失ったのはじつにこの時だった。おおもはや三十秒だッ! まさに三十秒、二十八秒、二十六秒!
裁きの時は近づいた。俺の言ったことが当るか、世界の馬鹿どもが言ったことが当るか。ああ俺は気を失いそうだ。あの大学の馬鹿教授連が神を恐れぬ実験のスウィッチを入れる瞬間は、もう間近かに迫った。もう十秒だ。俺は負けないぞ、負けないぞ! わが遺言状よ。わがたましいを運び去れ! ううう……三秒。おのれくそッ! 二秒、一……」
*
そのとき天野祐吉は額からポタポタと油汗を流し、顔を受信装置のパネルにグイグイと圧しつけ、受話器のあたっている耳は今にも融けそうに真紅《まっか》にもえていた。
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