がたもきっと喰われてしまいますよ。ああ、恐ろしい……」
「魔物ですって?」兄はキッとなって老婦人の顔を見つめました。「魔物って、どんな魔物なんです」
「そいつは鬼です。あの窓のところに、その魔の影が映りました。あれは人間でも猿でもありません。しかし何だか判らないうちにその鬼の形がズルズルと崩《くず》れてしまったのです。崩《くず》れる鬼《おに》の影《かげ》――ああ、あんな恐ろしいものは、まだ見たことが無い」
崩れる鬼影!
老婦人は一体どんなものを見たのでしょう。空を飛んでいった手術着の人は、どこへ行ってしまったのでしょう。
怪事件の顛末《てんまつ》
家の中に三人が入ってみますと、別に何の物音もしません。まるで地底《ちてい》の部屋のように静かです。
老婦人はベッドの上に、暫《しばら》く寝かして置きました。私は兄に命ぜられて、老婦人のそばについていました。兄さんはソッと部屋を出てゆきました。きっと二階の方に、事件のあとを探しに行ったのに違いありません。
老婦人はベッドの上に、静かに目を閉じて睡っています。呼吸《いき》も大変|穏《おだや》かになって来ました。やっと気が落
前へ
次へ
全81ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング