ところを、フワフワと飛び越しました。人間が飛ぶなんて、出来ることでしょうか。飛び越されるときに、なおもハッキリ下から見上げましたが、その怪しい人間は、寝台《しんだい》の上に乗ったように身体が横になっていました。手足はじっとしています。別に動かしもしないのに、宙を飛んでいるのです。どんな顔をしているかと見ましたが、生憎《あいにく》顔が上を向いているので、下からはよく見えません。しかし白い服と思ったのは、お医者さまがよく着ている手術着のようなものでした。
 兄と私は、こんどは後から伸びあがって、飛んでゆく人の姿を見つめていました。白衣《びゃくい》の人は、尚《なお》もフワフワと飛びつづけてゆきます。そしてだんだん高く昇ってゆきます。深い谿《たに》が下にあるのも気がつかぬかのようにそこを越えて、やがて向うの杉の森の上あたりで姿は見えなくなってしまいました。私達は悪夢《あくむ》から覚《さ》めたように、呆然《ぼうぜん》と立ちつくしていました。
「不思議だ、不思議だ」
 兄は低く呟《つぶや》いています。
 そこへバタバタと跫音《あしおと》がして、年とった婦人が駈けてきました。さっき窓から半身を乗りだ
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