というとあれは人間じゃないの」
「人間ではない。人間はあんなに身体が透《す》きとおるなんてことがないし、それから身体がクニャクニャで大きくなったり小さくなったり出来るものか。また足を地面につかないで力を出すなんておかしいよ。とにかく地球の上に棲《す》んでいる生物に、あんな不思議なものはいない筈《はず》だ」
「じゃ、もしや火星からやって来た生物じゃないかしら」
「さアそれは今のところ何とも云えない。これぞという証拠《しょうこ》が一つも手に入っていないのだからネ」
そういって兄は首を左右にふりました。そのとき私の頭脳の中に、不図《ふと》浮《うか》び出たものがありました。
「あッ、そうだ。その証拠になるものが一つあるんですよ」
「えッ。何だって?」
「証拠ですよ」と云いながら私は大事にしまってあった手帛《ハンカチ》の包みをとり出しました。「これを見て下さい。兄さんが気を失った室の硝子《ガラス》窓のところで発見したのですよ。硝子の壊《こわ》れた縁《ふち》に引懸《ひっか》かっていたのですよ。ほらほら……」
そういって私は、あの白い毛のようなものを取り出して兄に見せると共に、発見当時の一伍一什
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