だきますから、どうぞ」
「どうぞとはこっちの言うことです。貴方《あなた》がいて下さるので、こんなひどい事件に遭《あ》っても私達は非常に気強くやっていますよ」
そこで私達も白木警部と同じ自動車の一隅《いちぐう》に乗りました。私達の自動車は先頭から二番目です。警笛《けいてき》を音高くあたりの谷間に響《ひび》かせながら、曲り曲った路面の上を、いとももどかしげに、疾走《しっそう》を始めました。
「兄さん」と私は荘六《そうろく》の脇腹《わきばら》をつつきました。
「なんだい、民ちゃん」と兄は久しぶりに私の名を呼んでくれました。
「早く夜が明けるといいね」
「どうしてサ」
「夜が明けると、谷村博士のお邸《やしき》にいた化物どもは、皆どこかへ行ってしまうでしょう」
「さア、そううまくは行かないだろう。あの化物は、あたりまえの化物とは違うからネ」
「あたりまえの化物じゃないというと……」
「あれは本当に生きているのだよ。たしかに生物《せいぶつ》だ。人間によく似た生物だ。陽《ひ》の光なんか、恐《おそ》れはしないだろう」
「すると、生物《いきもの》だというのは、確かに本当なんだネ、兄さん。人間によく似た
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