を眺めていることは、どんなにか苦しいことでしょう。戦いの運はもう凶《きょう》のうちの大凶《だいきょう》です。


   鬼影《おにかげ》を見る


「呀《あ》ッ、出て来たッ」
 果然《かぜん》、モーニング・コートを着て、下には婦人のスカートを履《は》いた奴《やつ》が、室の入口からフラフラと廊下の方に現れました。生《い》け捕《ど》りにはしたいのですが、こう強くてはもう諦《あきら》めるより外《ほか》はありません。死骸《しがい》でも引き擦《ず》って帰れると、成功の方かも知れません。
「撃《う》ち方《かた》ァ始めッ」
 ダダダダダダダダーン。
 ドドドドドドドドーン。
 銃口からは火を吹いて銃丸が雨霰《あめあられ》と怪物の胴中《どうなか》めがけて撃ち出されました。
「この野郎、まだかッ」
 バラバラと飛んでゆく弾丸は、黒いモーニングの上にたちまち白い弾丸跡《たまあと》を止《と》め度《ど》もなく綴《つづ》ってゆくのでした。とうとう洋服の布地《ぬのじ》の一部がボロボロになって、銃火《じゅうか》に吹きとばされました。
 怪物の腹のところに、ポカリと大きい穴があきました。それだのに怪物は、悠々《ゆうゆ
前へ 次へ
全81ページ中36ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング