だいいとして、この人達の顔が一向にハッキリしないのは変です。
 私は眼をパチパチとしばたたいて幾度も見直しました。ああ、これは一体どうしたというのでしょう。彼等の顔のハッキリしないのも道理《どうり》です。全《まった》くは、顔というものが無いのです。頭のない生物です。頭のない生物が、まるで檻の中に犇《ひしめ》きあう大蜥蜴《おおとかげ》の群《むれ》のように押し合いへし合いしているのです。
「ばッ、ばけもの屋敷だ!」
 私はそう叫ぶと、室内《しつない》に死んだようになって横たわっている老婦人を助ける元気などは忽《たちま》ち失《う》せて、室外に飛び出しました。うわーッと怪物たちが、背後《うしろ》から襲《おそ》いかかってくる有様が見えるような気がしました。
「助けてくれーッ」
 私はもう恐ろしさのために、大事な兄のことも忘れ、一秒でも早くこの妖怪屋敷から脱出したい願いで一杯で、サッと外へ飛び出しました。
「たッ助けてくれーッ」
 ああ、眩《まぶ》しい自動車のヘッド・ライトは、二百メートルも間近《まぢか》に迫《せま》っています。警察隊が来てくれたのです。あすこへ身を擲《な》げこめば助かる! 私はも
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