ーウ、ウ、ウ。
 まるで怪獣のような呻《うな》り声です。
 破れた窓から外に首を出してみますと、どうでしょう、遥《はる》か下の街道《かいどう》をこっちへ突進して来る自動車のヘッドライトが一《ひ》イ、二《ふ》ウ、三《み》イ、ときどきパッと眩《まぶ》しい眼玉をこっちへ向けます。いよいよ警察隊がやって来たのです。頭からポッポッと湯気《ゆげ》を出して怒っている警官の顔が見えるようでした。
 ふりかえってみると、兄は依然として絨氈《じゅうたん》の上に長くなったまま、苦しそうな呼吸をしていました。
 私は階段をトントンと下って、老婦人の室《へや》の扉《ドア》を叩《たた》きました。
「おばさん。いよいよ警官が来ましたよ。もう大丈夫ですよ」
 そう云いながら、私は扉を開いて室内へ一歩踏み入れました。
「や、や、やッ――」
 私の心臓はパッタリ停ったように感じました。私は一体そこで、何を見たでしょうか?


   妖怪屋敷《ようかいやしき》


 この室の扉《ドア》を開くまでは、私は老婦人ひとりが、静かに寝台《ベッド》の上に睡《ねむ》っていることと思っていました。ところがどうでしょう。いま扉を押して見て
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