ん》の上に寝かしたままに放置するより仕方がありません。隣の寝室らしいところから、枕と毛布とをとって来て、兄にあてがいました。それから、金盥《かなだらい》に冷い水を汲《く》んで来て、タオルをしぼると、額の上に載《の》せてやりました。こうして置いて私は、現場調査にとりかかったのです。
 その室で、まず私の眼にうつる異様なものは、窓|硝子《ガラス》の真ン中にあけられた大きい孔《あな》です。これは盥《たらい》が入る位の大きさがあります。随分大きな孔があいたものです。何故この窓硝子が割れたのでしょうか。それを知らなければなりません。
 調べてみると、その窓硝子の破片《はへん》は、室内には一つも残らず、全部|屋外《おくがい》にこぼれているのに気がつきました。どうして内側に破片が残らなかったか?
(うむ。これは窓硝子を壊《こわ》す前に、この室内の圧力が室外の圧力よりも強かったのだ)
 もし外の方が圧力が強いと窓硝子が壊れたときは、外から室内へ飛んでくる筈《はず》ですから室内に硝子の破片が一杯|散乱《さんらん》していなければなりません。そういうことのないわけは、それが逆で、この室内の方が圧力が高かった
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