中を飛んで門の上をとび越え、川の向うの森の方へ行って見えなくなりました」
「なアーンだ。そこは飛行場なのかい」
「飛行場? ちがいますよちがいますよ。ここの主人は飛行機にも乗らないで、身体一つでフワフワと空中へ飛び出したのです」
「はッはッはッ」と軽蔑《けいべつ》するような笑い声が向うの電話口から聞えました。「人間が身体だけで空中へ飛び出すなんて、莫迦《ばか》も休み休み言えよ。こっちは忙《いそが》しいのだから、そんな面白い話は紙芝居《かみしばい》のおじさんに話をしてやれよ」
「どうして警察のくせに、この大事件を信じて手配をして呉《く》れないんです」わたしはもう怺《こら》えきれなくなって、大声で叫びました。
「オイ、これだけ言うのに、まだ判らないことを云うと、厳然《げんぜん》たる処分《しょぶん》に附《ふ》するぞ。空中へ飛び出させていかぬものなら、縄で結《ゆ》わえて置いたらばいいじゃないか。広告気球の代りになるかも知れないぞ」
 警官はあくまで冗談だと思っているのです。私はどうかして警官に早く来て貰いたいと思っているのに、これでは見込《みこみ》がありません。そこで一策を思いつきました。

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