関車の力較《ちからくら》べです。しかし私はそのとき、変な事を発見しました。それは怪人の足が地上についていないということです。地上に足がつかないでいて、どうしてあのような力が出せるのでしょう。これは一向《いっこう》腑《ふ》に落《お》ちません。
「もしや……」
 とそのとき気のついた私は、探照灯の光の下に、尚も怪人の身体を仔細《しさい》に注意して見ました。
「おお、思ったとおりだッ」
 私は思わず大きい声を立てました。怪人の身体は機関車にピタリと密着していないのです。怪人の身体と機関車との間には、三十センチほどの間隙《かんげき》があきらかに認められました。前に兄が谷村博士邸で、天井に逆《さかさ》にぶら下っていたとき、私は下から洋書を投げつけたことがあります。あのとき、どうしたものか、投げた洋書は兄の身体に当らずして、いつも三十センチほど手前でパッと跳《は》ねかえるのでした。何か兄の身体の上に三十センチほどの厚さのものが蔽《おお》っている――としか考えられない有様《ありさま》でした。あとから兄に聞いたところによれば、あのとき兄は化物に胴中《どうなか》をギュッと締められているように感じたという話でした。
 では、この場合、あの機関車を後へ押しているのは、あの怪人だけではなく、あの怪人に纏《まと》いついている化物の仕業《しわざ》ではありますまいか。イヤそうに違いありません。やっぱりあの化物です。しかし化物がどうして怪人と力を合わせているのでしょうか。
「何が思ったとおりだ」と兄が尋《たず》ねました。
「やっぱりあの化物が機関車を前から押しかえしているのですよ」
「ほう、お前にそれが解るか」
 私はそのわけをこれこれですと、手短《てみじ》かに兄に話をしてきかせました。
 ジリジリと機関車は尚《なお》も怪人を押しかえしてゆきました。そして機関車はとうとう、隧道《トンネル》の入口にさしかかりました。それでも機関車はグングン押してゆきます。怪人の姿は全く見えなくなりました。隧道の中に隠れてしまったのです。
 そうこうしているうちに、突如《とつじょ》として耳を破るような轟然《ごうぜん》たる大音響《だいおんきょう》がしました。同時に隧道の入口からサッと大きな火の塊《かたまり》が抛《ほう》りだされたように感じました。
 グォーッ。ガラガラガラガラ。
 天地も崩れるような物音とはあのときのこ
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