は不利です。
ピリピリピリピリ。
もうこれまでと、警部は非常集合の警笛をとって、激しく吹き鳴らしました。
素破《すわ》一|大事《だいじ》とばかりに裏門の一隊と、表門に待機していた予備隊《よびたい》とが息せききって駈《か》けつけました。
警部はその二隊を、問題の室には向けず、階段の影に集結しました。この上|乱闘《らんとう》をしてみたって、あの怪物には到底《とうてい》歯が立たないことを悟《さと》ったからでしょう。
「機関銃隊《きかんじゅうたい》、配置につけッ」
たちまち階段の影に三挺の機関銃を据《す》えつけました。しかし引金を引くわけにはゆきません。向うの室では、味方の警官も苦闘《くとう》をつづけていれば、老婦人もどこかの隅《すみ》にいるかと考えられるからです。唯一つの機会は、室から外へ出てくる怪物があれば、この機関銃から弾丸《だんがん》の雨を喰《く》らわせることが出来ます。
「うーむ、今に見ていろ」
警部は自暴自棄《じぼうじき》で、苦闘している部下のところへ飛びこんでゆきたいのを、じっと怺《こら》えていました。それは犬死《いぬじに》にきまっていますが見す見す部下が弱ってゆくのを眺めていることは、どんなにか苦しいことでしょう。戦いの運はもう凶《きょう》のうちの大凶《だいきょう》です。
鬼影《おにかげ》を見る
「呀《あ》ッ、出て来たッ」
果然《かぜん》、モーニング・コートを着て、下には婦人のスカートを履《は》いた奴《やつ》が、室の入口からフラフラと廊下の方に現れました。生《い》け捕《ど》りにはしたいのですが、こう強くてはもう諦《あきら》めるより外《ほか》はありません。死骸《しがい》でも引き擦《ず》って帰れると、成功の方かも知れません。
「撃《う》ち方《かた》ァ始めッ」
ダダダダダダダダーン。
ドドドドドドドドーン。
銃口からは火を吹いて銃丸が雨霰《あめあられ》と怪物の胴中《どうなか》めがけて撃ち出されました。
「この野郎、まだかッ」
バラバラと飛んでゆく弾丸は、黒いモーニングの上にたちまち白い弾丸跡《たまあと》を止《と》め度《ど》もなく綴《つづ》ってゆくのでした。とうとう洋服の布地《ぬのじ》の一部がボロボロになって、銃火《じゅうか》に吹きとばされました。
怪物の腹のところに、ポカリと大きい穴があきました。それだのに怪物は、悠々《ゆうゆ
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