う夢中で走りました。
「オイ何者かッ。停まれ、停まれ」
私の顔面には突然サッと強い手提電灯《てさげでんとう》の光が浴せかけられました。おお、助かったぞ!
怪しき博士の生活
「この小僧《こぞう》だナ、さっき電話をかけてきたのは」
無蓋《むがい》自動車の運転台に乗っていた若い一人の警官が、ヒラリと地上に飛び降りると、私の前へツカツカと進み出てきました。
「僕です」私はもう叱《しか》られることなんか何でもないと思って返事しました。「トンチキ野郎などと大変な口を利《き》いたのもお前だろう」
「僕に違いありません。そうでも云わないと皆さん来てくれないんですもの」
「オイオイ、待て待て」そこへ横から警部みたいな立派な警官が現れました。「それはもう勘弁《かんべん》してやれ」
私はホッとして頭をペコリと下げました。
「それでナニかい。一体どう云う事件なのかネ。君が一生懸命の智慧《ちえ》をふりしぼって僕等を呼び出した程の事件というのは……」
警部さんには、よく私の気持が判っていて呉《く》れたのです。これ位|嬉《うれ》しいことはありません。私は元気を取戻しながら、一伍一什《いちぶしじゅう》を手短かに話してきかせました。
「ウフ、そんな莫迦《ばか》なことがあってたまるものか。この小僧はどうかしているのじゃないですか」
例の若い警官黒田巡査は、あくまで私を疑っています。
「まアそう云うものじゃないよ、黒田君」分別《ふんべつ》あり気《げ》な白木《しろき》警部は穏《おだや》かに制して、「なるほど突飛《とっぴ》すぎる程の事件だが、僕はこの家を前から何遍《なんべん》も見て通った時毎《ときごと》に、なんだか変なことの起りそうな邸《やしき》じゃという気がしていたんだ」
「そうです、白木警部どの」とビール樽《だる》のように肥った赤坂巡査が横から口を出しました。「ここの主人の谷村博士は、年がら年中、天体望遠鏡にかじりついてばかりいて他のことは何にもしないために、今では足が利《き》かなくなり、室内を歩くのだってやっと出来るくらいだという話です」
「可笑《おか》しいなア、その谷村博士とかいう人は、確《たし》かに空中をフワフワ飛んでいましたよ」私は博士が足が不自由なのにフワフワ飛べるのがおかしいと思ったので、口を出しました。
「それは構わんじゃないか」黒田巡査が大きな声で呶鳴《どな》るよ
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