まわる。それがすむと、一時間ばかり書類を見て、それからやっと軽い朝食をとるのが習慣になっていた。
「いやあ、お早いですな」
 と声をかけながら、白麻の背広にふとった体を包んだ紳士が、甲板の方から入ってきた。それは外ならぬソ連のハバノフ特使であった。
「やあお早う、ハバノフさん。私は煙草が吸いたくなって、それで朝早く眼が覚めるのですよ。眠っている間は、煙草を吸うわけにゆかないですからねえ」
「いや私は、第一腹がへるので、眼が覚めますわい。どっちも意地のきたない話ですね。あっはっはっ。――ときにちょっとここにお邪魔をしていいですか」
 と、ハバノフ特使は傍の籐椅子を指さした。
「さあどうぞ。いまセイロンの紅茶をいいつけましたから、一しょにやりましょう」
 とリット少将は上機嫌である。
 ハバノフ特使は籐椅子をリット少将の方へひきよせると、
「ねえ、リット少将。――」
 と改った口調で、上眼をつかう。
「おお何か御用件でしたか。それは失礼しました。どうぞおっしゃってください」
「――実は、昨日貴官からお話のあった英ソ両国間の協定のことですが、国の方へ相談してみたのです」
「ほほう、それはそれ
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