ない。
     ×   ×   ×
 だが艦隊司令官は、いたずらに考えこんでいるのではなかった。
 旗艦の上では幕僚会議が開かれた。そして遂に艦隊司令官の決意となった。
 旗艦須磨の無電室は、その次の瞬間から俄かに活溌になった。
 当直の通信兵は、送受信機の前に前屈みとなって、しきりに電鍵をたたきつづけていた。そして耳にかけた受話器の中から聞えてくる返電を、紙の上にすばやく書きとっては、次々に伝令に手渡していた。
 その受信紙の片隅には、どの一枚にも「連合艦隊発」の五文字が赤鉛筆で走り書されてあった。それでみると、須磨は、多分太平洋のどこかにいる連合艦隊の旗艦武蔵と、通信を交わしているものらしかった。
 一たいなにごとにつき、連合艦隊と打合わす必要があったのであろうか。
 そのうちに、この無電連絡は終った。
 旗艦須磨の通信兵は、電鍵から手を放した。しかし彼の耳に懸っている受信器には、しきりに連合艦隊の旗艦武蔵がホ型十三号潜水艦を呼んでいる呼出符号が聞えていた。
 モールス符号はトン、ツー、トン、トン、ツー……と絶間なく虫のような鳴声をたてていた。相手のホ型十三号はどうしているのか、
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