けたのだ。長谷部、川上を恨むな」
「ええ、誰が恨みましょう。しかし……」
「しかし――どうした」
「川上の奴は武運のいい男ですな!」
 長谷部大尉は、そういいながら、羨しそうに、太い自分の腕をなでまわした。
「うむ、そうじゃろう。だが君のいうとおりなにごとも運ものじゃ。運ものじゃから、いつまた思いもかけぬ大きな武運が転がりこんでくるかもしれんのだ。わしとても同じ思いじゃ」
 艦長加賀大佐も、また瞳を若々しく輝かせた。
「そうだ、長谷部大尉。もう一つ下の電文も読んでみたまえ」
「はっ、そうでありますか」
 その電文には、どんな通信がのっていたであろうか。
 長谷部大尉は、受信紙をみつめて、呆然としながら、
「いやあ、私もちかごろ焼が廻ったことがわかりました。杉田二等水兵にも、先んじられてしまったんだ」
 と無念そうに唇をかんだ。
 その電文には、
「スギタニスイヒコートウニツク。マモナクヨコハマジヤツクトイウワルモノニツカマツタ。カワカミ」
 とあった。
「艦長。これから川上機関大尉と連絡して、どんなことをおやりになるつもりですか」
 艦長は尤もな質問だという風にうなずいて、
「すべて今
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