のだった。
彼は監視員の眼をのがれるために、遠方から得意のもぐりをつづけて、橋構の間を分けて入り、かなり奥の方の橋構まで進んで、やっと水中から顔を出したのであった。
橋構鉄塔にはいのぼると、彼は胴にまきつけてきた用意の白いズボンの水を絞ってはいた。腹から上は裸だった。何しろここは暑いところで、こうした半裸体の労働者が多いので、これで十分なのだった。
起重機のがらがらという音だの、圧搾空気の鉄槌のかたかたかたと喧《やかま》しい響だの、大きなポンプの轟々と廻る音だのが、頭の上にはげしく噛みあっている。どこかでひゅーっと号笛《パイプ》が鳴るのが聞える。自分が忍びこんだのが見つかったのではないかと、ひやりとした。
鉄塔のかげにかくれていたが、追ってくる人もないようなので、杉田二等水兵は、そこを出て、そろりそろりと甲板の方へよじのぼっていった。こういうことなら、水兵さんだけに得意なものである。
彼はやがて川上機関大尉の荷物をうけとった広珍料理店前にやって来た。
そこで、彼はしばらくためらった後、思い切って店内へ足を踏みこんだ。
広珍料理店
飛行島に泳ぎついた杉田二等水
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