「やあ、百キロ焼夷弾か。そいつは強勢だ。まあ、それへ掛けろ」
 長谷部大尉は、上はシャツ一枚で、狭いベッドの上にあぐらをかく。川上機関大尉は椅子にどっかと腰を下した。
 二人は同期の候補生だった。そして今も同じ練習艦明石乗組だ。
 もっとも兵科は違っていて、背高のっぽの川上大尉は機関科に属しており、長谷部大尉は第三分隊長で、砲を預かっていた。
「これでやるか、――」
 と長谷部大尉は、バスケットから九谷焼の小さい湯呑と、オランダで土産に買った硝子《ガラス》のコップとをとりだす。
「ええ肴《さかな》は――と」
 といえば、川上機関大尉は、
「肴は持ってきた」
 といいながら、ポケットから乾燥豚の缶詰をひっぱり出した。
「いよう、何から何まで整っているな。おい川上、今日は貴様の誕生日――じゃないが、何か、ああ――つまり貴様の祝日なんだろう」
「うん、まあその祝日ということにして、さあ一杯ゆこう」
「やあ、いよいよ焼夷弾を腹へおとすか。わっはっはっはっ」
 二人は汗をふきながら、生温かい故国の酒をくみかわすのであった。


   南シナ海の怪物


 しばらくすると、二人の若い士官は、どっち
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