ぞ。なぜあんなことをやった。これ、こっちへ顔を見せろ」
 といったが、その時スミス中尉の心臓はどきっととまりそうになった。
「あっ、貴様はこの前の怪中国人!」
 中尉は、リット少将に眼くばせすると同時に、非常呼集の笛をひょうひょうと吹いた。
 それに応じて、廊下にどやどやと入りみだれた靴音が近づいてきた。警備隊員が銃をもって駈けつける音だ。
 いまはこれまでと、川上機関大尉は観念した。この敵をなぐり殺すことなどは、さしてむつかしいことではないが、自分にはもうすこし果さなければならぬ重大任務がある。ここは一刻も早く逃げることだ。
 だが警備隊員はすでに入口にせまっている。ほかに出口はない。リット少将もスミス中尉もピストルを持っているだろう。とすると遂に袋の鼠となりはてたのか。
(捨身だ!)
 とっさに肚をきめた川上機関大尉は、
「えい!」
 と叫んで身をしずめた。
「うーむ」
 スミス中尉は脾腹をおさえ、その場に倒れた。川上磯関大尉得意の当身《あてみ》であった。
 リット少将はさすがに武将だ、いちはやくベッドのうしろに隠れて、ピストルを乱射する。入口からは、遂にわーっと警備隊員が銃剣をき
前へ 次へ
全258ページ中144ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング