の飛行島へ入りこんだそうだな。なぜ入りこんだのか、白状しろ。そいつを白状すれば、このヨコハマ・ジャックさまが、手前《てめえ》の一命だけは助けてやらあ。さあ、いえ」
 ヨコハマ・ジャックとは、あだ名なのであろう。横浜にいたごろつきに違いない。
「……」
 杉田二等水兵は、かたく口をむすんで、返事をしようとはしない。彼はいまにして、さっき広珍料理店で川上機関大尉をさがしにきたわけを話したことを悔いた。とうとうこの悪漢どもに、うまく利用されてしまったのだ。
「こんなにいってやるのに、手前は返事をしないな。ようし、いわなきゃ、自分でいいたくなるようにしてやらあ。覚悟しやがれ」
 ジャックは、のっそり腰掛から立ちあがった。そして太い腕をさすりながら、杉田の前に近づいて、上から睨みおろした。仁王さまが人間を睨みつけているような形だった。
「この野郎!」
 と、ジャックは大喝一声、大きな拳固をかため杉田の頤を覘《ねら》ってがーんと猛烈なアッパー・カットを――。
「えーい!」
 同時に鋭い気合が、杉田の口をついて出た。
 懸声もろとも、杉田がけしとんだかと思うと、そうではなく、どたーんと大きな物音がして、酒壜もろとも卓子をひっくりかえしてしまったのはジャックの巨体だった。まるで爆撃機のプロペラーが廻ったように、もんどりうって、その卓子《テーブル》の上に叩きつけられたのだ。
「うーむ」
 と、大男はうなった。それまではよかったけれど、これを見て驚いたのは、室内の乱暴な白人の手下ども五六人だ。やがてわれにかえると親分の一大事とばかり、どっと杉田にとびかかってきた。
 こうなっては仕方がない。杉田も立派な帝国軍人だ。侮辱をうけて黙っていられない。腕に覚の柔道で、とびこんでくるやつを腰車にかけてなげとばし、つづいて拳固をつきだす奴の手を逆にとって背負いなげにと、阿修羅のように力戦奮闘した。が、いくら強いといってもこちらは一人、相手は大勢の命しらずの乱暴者だ。杉田はとうとう大勢に組み伏せられた上、手錠をはめられてしまった。そして傍の鉄の柱に、胴中をぐるぐる巻にされた。
「さあどうだ。よくもひどい目にあわせたな。もう手むかい出来めえ。さあ、こうしておいて、いやでも川上という士官の秘密をしゃべらせ、団長へ売りつけるんだ。はっはっはっ、手前は福の神だよ。福の神が、そんな食いつきそうな顔をするなよ」
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