を外すことを忘れるな」
 敵と引組んだまま甲板に転んでいる川上機関大尉は、フランク大尉の鉄拳の雨に叩かれながら、喉もはりさけるように叫んだ。
 杉田の返事は、もうなかった。
 甲板の薄明の中に、重傷まだ癒えぬ杉田二等水兵が、爆弾をしっかり小脇に抱いて、とととっと走ってゆくその後姿が見えた。川上にとって、それが杉田二等水兵の見納となった。
「――天皇陛下、ばんざーい」
 血を吐くような絶叫がかすかに聞えた。それは正しく杉田二等水兵の声であった。そのとき彼の姿は、爆弾庫の口から消えていたのだ。彼は爆弾の安全弁を外すと、そこへ飛びだした敵の水兵を片手で殴り倒すが早いか、爆弾を抱えたまま、爆弾庫の中に身をおどらせてとびこんだ。川上機関大尉に代り、身をもってこの大任務を遂行したのであった。
 杉田の姿が見えなくなると、川上機関大尉は、全身の力をふるって逆にフランク大尉をしめあげた。
「ううっ」
「えい!」
 一秒、二秒、三秒……。その時ぴかり! 眼もくらむような一大閃光!
 途端に二人の転がっている甲板が、鰐の背中のように震えだしたと思った刹那、が、が、がーんと百雷が一時に落ちたような大爆音!
 空気は裂けて、猛獣のように荒れ狂った。鼻をつく硝煙、真赤な火焔、ひっきりなしの爆音、それに呼応して天空高くとび上る大水柱! あたりは闇黒と化し、天地も瞬間にひっくりかえったかと思われた。なんという凄絶な光景であったろう。
     ×   ×   ×
「長谷部少佐、今のを見たか」
「は、見ました。司令官。飛行島が爆破したのではありますまいか」
「うむ、そうかもしれない」
 駆逐艦清風の艦橋で、双眼鏡を手にとって語る二人の将校があった。
 駆逐艦清風は、いま浮かぶ飛行島へ、海上あと十キロのところまで近づいていた。その後に従うのは、いずれも帝国海軍が快速と攻撃力とを誇る最新一等駆逐艦十六隻だ。いや、それだけではない。そのすぐ後方には、水雷戦隊が暁闇の波浪をのりきって驀進しつつある。そのうちに、灰色の雲間を破って、わが海の荒鷲隊が勇姿を現すことであろう。主力艦隊も、堂々とこちらへ前進しつつあるのにちがいない。
 艦艇のマストには、戦闘旗がひらひらとひるがえった。
 飛行島大戦隊は、夜明とともに、わが艦隊に頭をおさえられた形だった。まだまだ海戦は起らないものと思っていたのに、不意に日本艦隊が
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