びだした。
「おお、飛行機の出動だ。いまごろ何事が起ったというのか」
 川上機関大尉は、つぎつぎに起る不審な出来事に、小首をかしげたが、そのとき後にあたって、わーっという喊声《かんせい》が聞え、それと同時に、ぴゅーんと一発の弾丸が頭の上をかすめてすぎた。
「見つかったらしい。よし、こんなところで撃たれてはならぬ。もう一息だ」
 川上機関大尉は、残りの階段を一気にかけおりた。また一台の飛行機が、爆音高く飛行甲板の上を走り去るのが聞えた。
 このとき川上機関大尉の頭の中にすばらしい考えが、電光のように閃いた。


   天の与《あたえ》


「そうだ。千載一遇の機会が向こうからやってきたのだ。これも神様の助であろう」
 川上機関大尉は、ちょっと眼を閉じて、黙祷した。そして次の瞬間には、大尉ははや日本刀を片手にさげ、飛行甲板を匐《は》うように駈けだした。
 彼の眼は、飛行機の出発点にそそがれている。そこには、微かな灯火が光っていた。下からエレベーターが飛行機をのせて上ってくる。四五台の飛行機が翼をすれすれに、ごたごたしているのが見える。大勢の整備員が、その間を入りみだれて走っている。エンジンをかけている者もあれば、別なところに設けられた爆弾庫の口から爆弾をかついで、廊下づたいに甲板へ出て、飛行機に積んでいる者もある。爆弾庫の口は、鋼鉄宮殿の一角に隠れて設けられてあり、爆弾ははるか下の艦底にある爆弾庫から、エレベーターにのって入れかわり立ちかわりするすると上ってくるのであった。
 川上機関大尉が眼をつけたのは、いま飛行機に積もうとしている爆弾であった。
 爆弾は、爆弾庫|口《ぐち》から水兵の手によって甲板に運ばれ、ひとまず飛行機エレベーター脇の甲板の隅に積みかさねられた。すると飛行機づきの整備兵が、その爆弾の山から一個ずつとって、飛行機の胴につりさげるのであった。川上機関大尉は、なにくわぬ顔をして、爆弾の山に近づいた。
「さあ、今だ」
 彼は、大胆にも、無造作に一個の二キロ投下破甲爆弾をむずと小脇に抱えとるや、なに食わぬ顔をして、すたすたと歩きだした。
 誰も、これを怪しむ者がなかったのは、天佑というべきであった。誰も忙しく立ち働いていたので、気がつかなかったのだ。
 彼は悠々せまらぬ態度で、鋼鉄宮殿の中にはいった。中から一人の水兵が出合いがしらに、川上機関大尉にぶつかった
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