川上機関大尉は素裸でありますなんてことをいった。とにかく杉田がなかなか艦長室から帰って来ないのも、もとはといえば余計な貴様のおしゃべりのせいだぞ」
 それを聞いていた大男の大辻は、突然顔をゆがめて、
「お、俺は、そんなつもりでしゃべったんじゃないんだ。杉田のやつが悲痛な顔をしてやがるから、俺も一しょにしらべて、一刻も早く川上機関大尉の行方をさがしだしてやろうと思ってしゃべったんだ。それだのに、貴様らは――貴様らは――うへっへっへっ」
 大辻は涙をぽろぽろ出して、泣きだした。
 同僚はあわてた。大男の大辻が泣くところをはじめてみたからである。しかもなんという奇妙な泣声だろう。うへっへっへっなんて、泣声だか、それとも笑声だか分かりゃしない。
「おい大辻。わ、分かった分かった」と魚崎は立ちあがって、やさしく大男の肩をなでてやった。
「貴様の友達おもいの気持はよく分かっとる。泣くな泣くな、みっともないじゃないか。布袋《ほてい》さまみたいな貴様が泣くと、褌のないのよりも、もっとみっともないぞ」
 どっと一座は爆笑した。
 大辻も、それにつりこまれて、涙にぬれた顔をあげながら、にっこり笑った。


   飛行島を出港


 同僚たちが心配していた杉田二等水兵は、その夜更《よふけ》十二時近くになってはじめて帰された。
 彼が、ただ一つ残されたハンモックを天井に釣りはじめた時、その隣で寝ていた魚崎や大辻が眼をさました。
「おう、杉田、帰ってきたか。みんなが心配していたぞ」
「杉田、俺のおしゃべりのせいで、貴様が引張られたんだといって、みんなが俺をいじめやがった。そんなことはないなあ、杉田」
 が、杉田は、なにも口を開こうとはしなかった。
「おい杉田。どうしたんだ。艦長に対してどう御返事をしたのだ」
 杉田はハンモックの中にもぐりこんだ。そして顔を僚友の方へちょっとだけ向けて、
「おい皆。どうもすまん。俺の気のつけようが十分じゃなかったんだ。しかし皆、どうか信じていてくれ。俺だって帝国軍人だ。卑怯なことはせん。よくそれを覚えていてくれ。――もう俺は寝る」
 そういって杉田二等兵は、毛布のなかに顔をうずめてしまった。
 僚友たちも、それをみると、やや安堵して自分のハンモックにかえっていった。
 しかしこの事件について何かの疑いをかけられている杉田二等水兵は、今宵はたして安らかに眠れるで
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