将閣下。あれほど私が御注意申しあげましたのにもかかわらず、私がカワカミだと申す人物を、あの船の上へ逃がしておしまいになりましたね」
 リット少将は、フランク大尉の方へ顔を向けて、
「もうカワカミのことはくどくいうな。たといこの上カワカミを捕らえ、この飛行島に監禁しておいたところが、邪魔にこそなれ、なんにもならないのだ。お前も知っているとおり、本国からの訓令により、明日はこの飛行島がいよいよ重大任務を帯びて某方面へ出動するのではないか。もうカワカミのことは、忘れようではないか。そして一路、敵国艦隊を撃滅することに、専心するのだ。まあわしのすることを見ているがいい」
 リット少将は、うす気味がわるいほど、上々の機嫌だった。
 この老獪なる建設団長――いや、七日前に本国からの電信により、あらたに極東艦隊飛行島戦隊司令官に任命されたリット少将は、なぜそんなに機嫌がよいのであろう?
 実は、これには深い仔細があったのである。リット司令官の胸中には、戦隊の首脳部のほんの数名にしか知らせてないある策略が宿っていたのである。
 では、その策略というのは?
 大量の非戦闘員を出発させるというのに、わざわざ真夜中をえらんだのは、なぜか。
 監禁囚人はもちろん、大事な俘虜杉田二等水兵や、カワカミの容疑者などを、同じ船にのりこませたのは、なぜか。
 それ等の事柄を、いま飛行島の建設がおわったことと思いあわせて、読者はなにごとかを胸のうちに感じないであろうか。
 なんとなく重苦しい予感!
 いや、もっとはっきりいいあてていい。
 もう一つ、考える材料ができた。それは飛行島を放れて香港へ行くはずの汽船ブルー・チャイナ号が、奇怪にも今それと反対に、真南に航行していることである。
 リット少将が、にやにや笑っている。
 それとは露知らず、さんざん酔払って乗船した帰還団体の誰も彼もは、船がどっちを向いて走っているのか、そんなことは知ろうとしないで、なおも酒壜をかかえて、わあわあ騒いでいた。
 午前三時十五分!
 恐るべき悪魔の翼は、ついに汽船ブルー・チャイナ号をつつんだ。
 もしも非常に敏感な人が船上にいたとしたら、その人は最初、相当おびただしい飛行機の爆音を耳にしたであろう。それは英国空軍に属する警備飛行団が飛行しているのだと思ったであろう。そうだ、まさしくそのとおりであった。
 次にその敏感なる
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