、普通なら処分するところだが、いまは飛行島の実力試験の最中だから大目にみてやる。早く持場へかえれと、さんざんやっつけられた。
 分隊長フランクが、真青になってエンジン室へ引揚げて来、そして飽くまでカラモの正体をあばいてみせるぞと決意もかたく、ピストル片手にカラモの一挙一動を監視していたことは、すでに知られたところである。
 カラモと名乗っているわが川上機関大尉は、冷やかにエンジンの番をつづけていた。ピストルがどこへ向いているか俺は知らんぞといった調子である。生きるか死ぬるかの問題なんか、飛行島に紛れこんだ時から、もう神仏にあずけてしまってあるのだ。そしてこの場合、やがて起るべきあることを待っていた。
 だだだっと靴音もあらあらしく、ケント兵曹が奥から駈けだしてきた。
「分隊長、たいへんです」
「たいへん? ど、どうした」
「海底牢獄の囚人が脱獄しました」


   川上機関大尉の決心


 海底牢獄というのは、飛行島で働いている者の中で、許しておけないようなことをやった人間を捕《と》らえて、おしこめておく牢獄であった。それは飛行島を水上に浮かばせている脚柱の下についている鉄筋コンクリートの浮函の中に造ってあった。そこは水面よりはるかの下になっているので、海底牢獄の名がついているのだ。当時、その中に放りこまれている囚人は五、六十人あった。多くは建設役人の命令に反抗した中国人や印度人であった。
「え、脱獄したって」
 と分隊長フランクが聞きかえすと、ケント兵曹は、
「そうです。私が倉庫エレベーターで下へおりようとしましたところ、エレベーターの綱条《ロープ》につかまって脱獄囚が下からどやどやと上ってきたのにはおどろきました」
「綱条《ロープ》につかまって上るなんて、そんなことができてたまるか」
「でも、嘘じゃありません。ほら、彼奴等がやってきました。足音がします。あそこをごらんなさい」
 その言葉のしたに、エンジンの奥から、うわーっととびだしてきたのは、印度人の一団であった。奥が暗いので、まるでシャツとズボンが攻めよせてきたように見える。
「あ、とうとうやってきたな」
 先頭の印度人は、監守をなぐり殺したらしい血染の鉄棒をふりかぶって、フランク大尉に肉薄する。
「仇敵、英国人め。圧政にくるしむわが印度同胞のうらみを知れ!」
「な、なにを――」
 だーん!
 フランクはつい
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