手の上におどりかかろうと、泥棒猫のような変な恰好ですれちがうのであった。
 いや、こっちが向こうを狙っているばかりではない。向こうもまた、こっちが二万ポンドではないかしらと思い、実に怪しげな物腰で、そろりそろりと横むき歩きで近づく。
 こうして近づいて、お互さまにカワカミでなかったと分かったとき、彼等はきまって、チェッと舌打をした。相手の大きな舌打が自分に聞えると、お互にがっかりしてすれちがう。歩行者は、こうして人に行き会うたびに、心を疲らせた。まことに、ふきだしたくなるような騒であった。
 リット少将にとって、二万ポンドの大懸賞金を放りださねばならなくなったことは大悲劇であったが、その大懸賞金を追いかける飛行島の人々の血走った眼の色などは、およそ大喜劇というほかない。
 いや、その大喜劇は、その夕方になってもっとはげしくなった。
 それは夕刻六時までに「カワカミ大懸賞捜索本部」へ引かれて来た重大犯人川上の数がなんと七十何名という夥しい数に達したことであった。
 川上機関大尉が七十何名もいる?
 当の川上機関大尉がこれを聞いたら、どんな顔をするであろうか。
 いや、その七十何名の中に、本物の川上機関大尉がまじっているかもしれないのだ。そして、夥しいこのカワカミ集団を見て苦笑《にがわらい》をしているかもしれない。
 もしその中に本物の川上機関大尉がまじっていたら、やがて苦笑だけではすまなくなるだろう。スミス中尉は、こんど川上機関大尉をひっとらえたら、すぐ殺してしまわねばならぬといっているではないか。
 さあ、七十何名の囚人の中に本物の川上機関大尉がまじっているかどうか――
「おい、もうここは締切ったぞ。カワカミを持ってくるなら、明日の朝にしてくれ。室の中はカワカミで満員だ。連れてきたって、入りきれやしないぞ」
 と、一人の捜索本部の役員が室の外におしよせている人々に向かって呶鳴っていると、そこへまた一人少しとんまらしいのがやって来て、
「わーい、こりゃすごいや。ことによると、カワカミというのは『東洋人』という日本語かもしれないぞ。だって七十何名のカワカミは、誰がなんといっても多すぎらあ」
「なにをいっているんだ、貴様。それよりも早く奥へいって手伝ってこい」
「え、奥へいって、一たいなにを手伝うのかね」
「なにをって? 分かっているじゃないか。七十何名のカワカミの中から
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