とのえ、「鋼鉄の宮殿」の階上を占める司令塔から、じっと外の様子を眺めていた。


   無線室の怪


「リット団長閣下、飛行島の主要部は、すっかり灯火管制下にあります」
 と、担任士官が報告をすると、少将はにこりともせず、窓の外を指さし、
「あれが完全管制だとは、なんという情ないことだ」と、檣《マスト》の上などにまだ消しのこされた灯火を指さした。
「わしは目が見えないことはないぞ。いいから配電盤のところで、電灯線へ流れこむ電流は全部切ってしまえ」
「はっ、だが、それは危険であります。閣下」
 と担任士官は、顔色をかえてリット少将の言葉をさえぎった。
「なんじゃ、危険じゃと? 一たいなにが危険なのじゃ」
 リット少将はけわしくいいかえした。
「つまりその、そうやれば灯火管制の方は完全でありましょうが、要所要所を固めている者達の活動が出来なくなるばかりでなく、悪性の労働者が、暗闇を幸い、どんな悪いことをはじめるかわかりません。私の心配なのは、この点であります」
「ばか奴!」とリット少将は、あらあらしく叱りとばした。
「それが灯火管制の最中に、責任ある者のいうことか。なんでもよい。敵機に、この飛行島の梁一本でも壊されてたまるものか。命令じゃ。電灯線への送電を即時中止せい」
「ははっ、――」
 一言もなかった。担任士官は、すごすごと少将の前を退いた。
 それから数分ののち、電灯線への電流はすべて止められた。ここにはじめて飛行島は、完全に闇の中に包まれてしまった。
 不意うちの送電中止に、飛行島のあちこちでは大まごつきであった。
 臆病な白人の細君たちの中には、暗黒と敵襲との二重の恐しさに悲鳴をあげて泣き叫び、寝床の中にもぐりこむやら、ぶるぶる慄えながらかけまわるやら、大騒がはじまった。
「日本の潜水艦が、すっかり飛行島のまわりをとりまいてしまったってよ」
「それよりも大変なことが起きたのよ。海底牢獄に閉じこめてあった囚人を、誰かが行って解放してしまったそうよ」
「あっ、皆さん、しずかに! 爆音がきこえる。日本の飛行隊がいよいよ攻めてきた。ああどうしよう。あなたあ、――」
 そういう騒の最中に、真暗な無線室の外を、どどどっと靴音をひびかせて通りすぎる一団がある。なにかわめいているが、暴徒だか監視隊だか、さっぱりわからない。その中に、
「無線室はどこだあ」
 と、呶鳴って歩い
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