せてくださーい」
 和船は、いったん帆村の方に、一直線に近づくと見えたが、そばまで来ると、急に、針路をかえた。
「おーい、たのむ。のせてくださーい」
 和船は、逃げるわけでもなく、用心ぶかく、帆村のまわりをぐるぐるまわりだした。
 帆村は、しきりに手をあげて、和船をのがすまいと、呼んでいるうちに、彼は船のうえにのっている人物をみて、「おや、あれは、トラ十のようだが」と首をひねった。
 しばらくすると、それは帆村の思ったとおり、トラ十にちがいないことがわかった。トラ十は、ついに船を帆村のところへ持ってきたのである。
「なアんだ、お前は曾呂利本馬《そろりほんま》じゃねえか」
 と、トラ十は、けげんな顔で、船のうえから、帆村を見下ろした。
「そうだ、曾呂利だ。こんなところで、仲間にあおうとは思いがけなかった。おねがいだ。その船にのせてくれよ」
 と、帆村は、たのみこんだ。トラ十は、まだ幸《さいわ》いにも、帆村の身分を知らず、ミマツ曲馬団の曾呂利青年と思っているらしい。
「ふん、助けてくれか。そうだな、お前なら、助けないわけにもいくまい。しかし、ことわっとくが、この船じゃ、おれは船長なんだぞ。
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