た。甲板には、救命艇の位置へいそぐ船客たちが、互いにぶつかり転り踏みつけあい、くらがりの中に、がやがや立ちさわいでいるばかりだ。
沈没までに、あと二十分とは、もたない。
房枝は、どこにいる。ニーナ嬢は、なにをしている。帆村探偵は、どこへいったのであるか?
このさわぎの中に、くらがりのマストのうえで、獣《けもの》のように、からからと声をたてて笑いつづける者があった。誰も、さわぎの最中のこととて、この怪人物に気づく者はなかったが、この人物は、意外も意外、それは死んだとばかり思っていたトラ十であったではないか。
沈没《ちんぼつ》迫《せま》る
ああ。なんという不運な雷洋丸よ!
もうあと一日たてば、母国の横浜港にはいれるところまで、もどってきたのだ。ところが、とつぜん、この大遭難である。これを不運といわないで、どうしようぞ。
なぜ、第一船艙が、とつぜん爆発したのであろうか?
そんなことを、いま、しらべているひまはない。なぜといって、いま雷洋丸はぐんぐんと左舷《さげん》へかたむいていく。
船客たちは、てんでに、なにかしら、わめきつづけている。なにしろ、船内の電灯は、はやく
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