着て、食堂へ入っていったり、またAデッキの籐椅子《とういす》にもたれて、しきりに口をうごかしているのが、とくに船客の目をひいた。
ニーナ嬢は、一人旅ではなかった。伯父《おじ》さんだという師父《しふ》ターネフと、二人づれの船旅であった。
師父ターネフは、もちろん宣教師《せんきょうし》で、いつも裾《すそ》をひきずるような長い黒服を着、首にまいたカラーは、普通の人とはあべこべに、うしろで合わせていた。いかにも行いすました宗教家らしく、ただ血色《けっしょく》のいい丸顔や、分別くさくはげかかった後頭部などを見ると、たいへん元気にみえ、なんだか、その首を連隊長か旅団長ぐらいの軍服のうえにすげかえても、決しておかしくはないだろうと思われた。
そのニーナ嬢が、階段のところで、曾呂利本馬と、鉢合《はちあわ》せをした。
ニーナ嬢は、うすぐらい階段を、急いで上からおりて来る。曾呂利は、松葉杖《まつばづえ》をついて、階段を四、五段のぼっていた。ニーナ嬢が、勢よくというより、少しあわて気味に足早におりて来たため、あっという間に、二人は下にころげおちた。
からだが不自由な曾呂利は、後頭部《こうとうぶ》を
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