たのですか。あの人は、ふだんから、にくまれているから、あたりまえよ」
 すると、曾呂利が、いそいで房枝のことばをとがめた。
「あたりまえだなんて、そんなことを、かるがるしく、いってはいけません。へんなうたがいが房枝さんにかかってくるかもしれません」
「でもあたし、トラ十を殺した犯人じゃないから、いいわ」
「なるほど」と、曾呂利はうなずいたが、房枝の方へ、さらにすりよって、
「房枝さん、ここに今、もう一つ、あやしいことが起っているのですが、あなたは、それに気がつきませんか」
 曾呂利は、もう一つ、あやしい事件が、すでに起っているというのだ。
「え? 飛行機のことですの」
「うむ、それもありますが、それはまた別にして、僕のいうあやしいことというのは、われわれミマツ曲馬団の中のことです」
「まあ。あたしたちの中に、まだ、あやしい事件が起っているとおっしゃるの。それは、なんですの。曾呂利さん、早くおしえてよ」

   しのばれる名探偵《めいたんてい》

 曾呂利青年は、妙なことをいいだしたものである。房枝は、この話をきいているうちに、いらいらしてきた。
「ねえ、早くおしえてよ。曾呂利さん」
 
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