ょうだんじゃないぞ。われわれは、どうすればいいんだ」
「どうにも仕方がないさ。いずれそのうち、鼻の穴と口とに海水がぱしゃぱしゃあたるようになるだろう。そのときはなるべく早く、泳ぎ出すことだねえ」
「泳げといっても、お前がいうように、そうかんたんにいくものか。ここから何百キロ先の横浜まで、泳いでわたるのはたいへんだ」
 などと、さわぎたてる。
 あやしい血痕のことについて、この三等食堂へかけつけ、取りしらべをしていた事務長は、しらべをやめて、ろうかの方へ走り去った。
「おい、お前たち、そんなくだらんことをしゃべるひまがあったら、甲板へ上って、この汽船がどうなったのか、ようすを見てこい!」
 隅《すみ》っこの席で、ゆうゆうとまだ飯をくっているカナリヤ使の老芸人鳥山が、どなった。
「ああ、そうだ。じゃあ、大冒険だが、ちょっといって、見てこよう」
「待て、おれもついていってやる」
 若い団員が二人、猿のようにすばやく、昇降階段《しょうこうかいだん》をよじのぼっていった。
 甲板の方できこえた爆音のような大きな音は、一発きりで、あとはきこえなかった。もっとつづけさまに、爆撃されるだろうと、ふるえ
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