をいった。房枝は、よろこんでそれをもらった。
「房枝さん、じつは、まだ、いろいろお話をいたしたいこともございますけれど、御病気にさわるといけませんから、今日はこれでしつれいさせていただきますわ。そのかわり、また伺《うかが》ってもようございますわね」
 と、道子夫人は、房枝に約束をもとめるようにいった。
 房枝は、そのへんじをするのがたいへんくるしかった。
「いいえ、こんな場所は、奥様などのたびたびおいでになるところではございません。また、どんなまちがいがあるかもしれませんし、もうどうか、けっしておはこびになりませんように」
 房枝は、血を吐《は》く思いでそれをいった。今夜の呼出し事件がなかったら、この日房枝は、道子夫人の膝にとりすがって、思うぞんぶん泣いてみたくてしかたがなかった。それはなぜだか、理由のところは房枝にもよくわからなかったが。しかし、もうそんなねがいは夢となった。あくまで冷酷にせまってくる現実とたたかわねばならないのだ。夫人を慕《した》えばこそ、今は夫人にふたたびいらっしゃらないようにと、いわなければならなかった。そう強くいって、房枝はかろうじて、わっと泣きたいのをこらえ
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