みた。そして、その次に、あのうつくしい大きい花籠を、卓子《テーブル》のうえに、さがしたのだった。
 どうしたわけか、花籠は、卓子のうえから消えていた。房枝は、おやと、思った。
 そのまま、だれも花籠のことをいいださなかったなら、房枝も、やがてきっと、その大きな花籠のことを、わすれてしまったことであろう。ところが、ひきつづいて、とんでもないさわぎが、まき起ったのだ。

   大音響《だいおんきょう》

「おう、いやだ、いやだ。これは血じゃないかな」
 とつぜん、ひとりの男が席からとびあがった。それは、同じ曲馬一団の黒川という調馬師《ちょうばし》だった。
 彼が、指をさししめす卓子《テーブル》のうえには、どうも人の血らしいものが、たくさん地図のような形に、白布《しろぬの》をそめていた。そして、なおもその附近には、手の形らしい血痕《けっこん》が、いくつも、べたべたと白布《はくふ》のうえについていた。そこは、ちょうど、あのうつくしい花籠がおいてあった前あたりであった。
「おお、これは血にちがいない。ぷーんと、あのにおいがするぜ」
「ほんとだ。だれの血だろう」どやどやと席をたって集ってきた三等船
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