い。あたくし、そのへんのお家で、錐をお借りして、鼻緒をすげてまいりますわ」
と、道子夫人にいってかけだした。
道子夫人は、それをとめたが、房枝は、どんどんかけだして、一軒の家へとびこんだのであった。
夫人は、房枝のあとを見送って、呆然《ぼうぜん》とその場に立っていた。
すると、そのとき、向こうから一台の自動車が、警笛《けいてき》を鳴らしながらやって来たので、夫人はまたかとおどろき、いそいで道の傍《かたわら》にさけた。そこはちょうど両側が沼になっていて、さけるのにはたいへん不便なところだった。
自動車は、急にとまった。
「おや、彦田博士の奥さんじゃありませんか。そのお姿はどうなすったのです。さあ、私がお送りしましょう。どうぞこの車へおのり下さい」
夫人が、顔をあげてみると、それは、ちかごろしばしば博士邸へたずねてくる青年探偵の帆村荘六だった。
道子夫人は、車に乗ろうとはせず、てみじかに、ここで起った出来事をのべたのである。もちろん、房枝のこともいった。
「奥さん。それはそうでしょうけれど、早くこの車へお乗りになった方がいいですよ。第一、泥がお顔にまではねかかっていて、たいへ
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