か。
新聞記事には“原因は目下取調中であるが、ガソリン樽《たる》が引火爆発したのではないかとの説もある”[#「説もある”」は底本では「説もある。」]
(ガソリンの樽――そんなものはない。ガソリン樽の引火なんて、そんなことはうそだ!)
と、房枝は、はやくも、記事のあてにならないことを見やぶった。
では、一体どうしたのであろうか。
爆発するものなんか、おいてなかったはずである。しかも団員が、それがために二十数名も死んでしまうなんて、そんなひどい爆発力をもったものはないはず。
(だが、ひょっとしたら、あれではないかしら)
房枝の胸は、それを考えついたとき、まるで早鐘《はやがね》のように鳴りだした。
ああ、あの花籠だ! あれこそ爆薬入りの花籠ではなかったか? おそろしかった雷洋丸事件の当時のことが、今更にありありと思いだされた。房枝は、そばにニーナ嬢が立っていることも忘れて、
「ああ、きっとあれだ!」と、こぶしを握って叫んだ。
ああ、惨事《さんじ》の後《あと》
房枝は、ニーナたちのとめるのをふりきって邸を出た。それは一刻もはやく、城南《じょうなん》の惨事のあとへいって、団員たちの様子を見たいためだった。
房枝が、停留場の方へかけだしていくあとから、ニーナが追ってきた。
「もしもし房枝さん。あたくし、あなたを自動車で送ってさしあげます。自動車で、スピードを出すのが一等早く、向こうへつきます」
それから、二十数分後に、城南の曲馬団の惨事のある附近まできた。
「ニーナ嬢、すぐかえりますか」
と、自動車を運転してきたワイコフ医師がいった。
「いいえ、もうすこし、ここにいます。あたくし、房枝さんのこと、心配です」
「では、ここに自動車をおいておくのはまずいから、例のホテルへ車をまわしておきますよ」
ワイコフ医師は、そういって、急いで、車をまわして立ち去った。
房枝は、惨事の小屋跡へかけよった。
「こらこら、はいっちゃいかん」
警官が、房枝の前に、立ちふさがった。
ニーナが、房枝をかばうようにうしろから抱きとめた。
しかし警官の肩越しに、惨事の跡がよく見えた。一夜のうちに、こうもかわるものであろうか。目をおおいたい惨状であった。天幕の柱が燃えおちて、ひどく傾いている。天幕の燃えのこりが、泥にそまって、地上に散らばっている。火事は全焼とまではいかず
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