を引いて見ましたが、なかなか思うようにはなりませんので、あの日、灯が点くと間も無くお由さんが泊り掛けで根岸へ行ったと聞きましたので、あっしは根岸の家の番地を人知れず確《た》しかめて、お由さんの後を追って行きました。根岸へ着いたのは八時頃だったと覚えています。所が何うしても此処と思う家が見当りませんので、今度は一軒一軒裏口へまわって、お由さんの声を目当に探し廻りましたが、矢っ張り知れません。その中に十一時半になってしまいましたので、何んだか急に馬鹿馬鹿しくもなって、其の足でぶらぶら歩いて引っ返し、千住《せんじゅ》の万字楼《まんじろう》という家へ登《あが》って花香《はなか》という女を買って遊びました。登《あが》ったのは多分十二時半か一時頃でしょう。翌朝其処を出たのは六時半頃です」
「何故又そんな事を今まで隠していたんだ」
「へッへ、姐御の後を附けたなんてうっかり言っては、飛んだ嫌疑《けんぎ》が掛かると思いましたんで――」
警察では直ぐに万字楼を調べて見たが、大体彼の言った事に相違《そうい》はなかった。
お由の死亡時刻は解剖の結果、午前一時前後ということになっている。して見れば時間の点か
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