きふと背後に人の気配《けはい》を感じて、あとをふりむいた。
 そこには、背広服をきた一人の青年が立っていた。ひどくくたびれたような顔をしている。色艶《いろつや》のわるい、むくんだような顔、下瞼《したまぶた》はだらりとたるみ、不快な凹《へこ》みができている。そして帽子の下からのぞいている大きな眼だ。その大きな眼が、宮川をじっと見つめていたのである。
「うむ」
 宮川は、なんとなく襲《おそ》われるような気持で、おもわず呻《うな》った。
 気のせいか、その怪《あや》しげなる男も、なんだかぶるぶる身体をふるわせているようであった。
 宮川は、石段をふんで、駈けあがった。そして境内へどんどん入っていった。社殿《しゃでん》の後に駈けこんで、そこでおずおず、うしろをふりかえった。怪しい男は、見えなかった。まず助かったと、彼はどきどきする心臓をおさえながら、社殿のうしろにベンチをみつけ、それに腰を下ろした。
「彼奴は何者だろうか?」
 彼はまだはあはあ息をきりながら、頭の中に今見た怪しい男の顔付を気味わるく思いうかべた。
 彼の腰をおろしているすぐ前に、誰が捨てたか、地上に捨てられた煙草の吸殻《すいが
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