疑問をとくため、彼は或る日博士をたずねて、この問題を出した。
「えっ、そんなものがあったかね」
「ありますとも。ここに持ってきました」
彼は青い手帖をとりだした。
博士は、深刻な顔をして、手帖の頁をくっていたが、俄《にわか》に笑いだした。
「ああ、これは儂《わし》のところの助手で谷口という男の手帖ですよ」
「でも、その手帖は、私の机の中にあったんです」
「そ、それですよ。じつは、谷口を、君のアパートの引越のとき、手伝いにつれていったんです。そのときポケットからとりおとしたのを、他の誰かが拾って、宮川さんのものだと思って、机の中に入れたのでしょう。いや、それにちがいありません」
「それはおかしいですね。筆蹟が、私のにそっくりなんです」
「こういう字体は、よくあるですよ。なんなら谷口をよんでもいいが、いま生憎《あいにく》郷里《きょうり》へかえっているのでね」
「私は、そのYという女に会いたくてしかたがないのです」
「えっ、それは駄目だ」と博士は目をむいていった。
「駄目です、駄目です。他人の女にかかりあってはいけない」
「本当に、そのYというのは、谷口さんの愛人なんですかね」
「そうで
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