、予想もしなかったような恐《おそ》ろしい事が起りそうで」
「じゃやっぱり君は、儂の手術を信用しとらんのじゃないか。まあそれはそれとしておいて、とにかく儂は宮川氏を退院させたからといって、後は知らないというのじゃない。一週間に一度は、宮川氏を診察することになっているのだ」
「まあ、そうでございましたか。博士が今後も診察をおつづけになるのなら、わたくしの心配もたいへん減《へ》ります。ですけれど、いまお話の今後の診察の件については、わたくし、まだちっとも伺《うかが》っておりませんでした」
「それはそのはずだ。診察をするといっても、患者を診察室によびいれて診察するのではない。宮川氏は、診察されるのは大きらいなんだ。逆《さか》らえば、せっかく手術した大脳に、よくない影響を与《あた》えるだろう。逆らうことが、あの手術の予後《よご》を一等わるくするのだ。だから儂は、すくなくとも毎週一度は、宮川氏の様子を遠方《えんぽう》から、それとなく観察するつもりだ。それが儂のいまいった診察なんだ。このことは当人宮川氏にも、また病院内の誰彼《たれかれ》にも話してない秘密なんだから、そのつもりでいるように」
 黒木博
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