の着衣をつけて、下駄を穿《は》いて、何喰わぬ顔で見張りの警官にも怪しまれずに戸外へ逃走《とうそう》する迄は、難なく行われたことであった。
 が、如何に緻密《ちみつ》の計画と、巧妙の変装を以てしても、白昼《はくちゅう》の非常線を女装《じょそう》で突破することは可《か》なりの冒険であった。
 ――樫田武平が捕縛《ほばく》されるに到ったのも、すべてこの最後の冒険に敗れたがためであった。

 さて、かくして怖るべき「電気風呂」の怪死事件は、犯人の捕縛と共に一切《いっさい》闡明《せんめい》されるに到った。
 やがて、あのフィルムは、警視庁へ移送されてその犯罪捜査に携《たずさわ》った一同の役人並に庁内《ちょうない》主脳者《しゅのうしゃ》の前で、たった一度だけ試写された。
 が、凡《およ》そ其試写会に立会った程の人々は、期待していた若き一婦人の断末魔《だんまつま》の姿を見る代りに、ま白きタイルの浪の上に、南海の人魚の踊りとは、かくもあるかと思われるような、蠱惑《こわく》に充ちた美しいお照の肉体の游泳姿態を見せられて、いずれ物言わぬ眼に陶然《とうぜん》たる魅惑《みわく》の色を漂《ただよ》わしていたもの
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