被害者の井神陽吉の身元を一見するのが目的であったことに間違《まちがい》はなかった。が、それを見ようとして、図らずもその調査項目の前に記されてあった文字が、彼をして一道《いちどう》の光明《こうみょう》を認めさせたのであった。それは――
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微罪《びざい》不検挙(始末書提出)
活動写真撮影業及び活動写真機械及附属品販売業|並《ならび》にフィルム現像《げんぞう》、複写業《ふくしゃぎょう》
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[#地付き]樫田武平(二四歳)
(住所)
といった、今日の事件に関係なく記入された覚《おぼ》え書きであったのだ。
赤羽主任は、それをチラと見るや、忽《たちま》ちにして脳裡に蟠《わだかま》っていた疑問を一掃《いっそう》し得ることが出来たのだ。というのは、樫田武平なる青年の住所が、村山巡査の管轄区域内の者であること、その職業がこの事件の謎を解くに最も有力なものであること、それに微罪ながらも交番巡査に始末書を取られるといったような行状《ぎょうじょう》などからして、直覚的《ちょっかくてき》に犯人推定を試みたのであった。
説明を聞いて、共に五里霧中《ごりむち
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