い》の山村であった。
「御苦労さまで、どうも。所で赤羽さん、あの感電騒ぎをやった井神陽吉という男ですな。大分意識も恢復して来たようですが、先生|頻《しき》りに帰りたい帰りたいと言うのです。言ってきかせても解らないので閉口してますが、どうでしょうな、あんまりあの男の意志に逆《さか》らうと、心臓が昂進《こうしん》して悪いのですが、お差支《さしつか》えなかったら、あの男を一応帰らしたらと思うんですが――。ええ、もうそりゃ決して逃げられるような身体じゃありませんよ」
「じゃあ帰してやりましょう。警察の者を二三人附き添《そ》わしてやって下さい。然し一応|身元《みもと》調べをすましたんでしょうな?」
「身元調べでは先刻《さっき》注射の後で、前の交番の村山巡査にやって貰っときましたよ。村山君、ちょっと先刻《さっき》の調査を見せて呉《く》れませんか?」
 呼ばれて釜場へやって来たのは、制服の巡査村山辰雄であった。彼は、事件の最初から見張り番に当って、一向犯行の経路も、捜査の経緯《いきさつ》も知らないのであった。
「村山君、他ではないが感電した男の身元調べをやって置いて呉れたそうですが――」
 赤羽主任
前へ 次へ
全41ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング