した電気にあたって死んでしまったのです。
 その物音に、トーチカのおくから大ぜいの敵兵があらわれ、ピストルや、剣をもって高一にむかってきました。
「さあ、こうなればだれでもむかってこい」
 高一は、せめてくる敵兵めがけて電気鳩をとびかからせ、かたっぱしからたおします。じつにものすごいいきおいです。さすがの敵兵も、手のくだしようがありません。
 高一は、ころあいをみはからって、軍用犬にひとつの大切な命令をつたえました。軍用犬は、まっていましたとばかり、トーチカのおくめがけてかけだしました。そのいいつけはなんであったでしょうか。
 高一と、敵兵とのたたかいは、つづけられましたが、電気鳩には、とてもかないません。そのうちに、犬がわんわんほえながらもどってきました。
「おお、わかったか。よしいこう。さあ、つれていっておくれ」
 高一は電気鳩をつれて、軍用犬のうしろからかけだしました。
「わん、わん、わん」
 軍用犬は、ひとつのとびらの前で、しきりにほえています。しかし、そのとびらには大きな錠《じょう》がおりていて、あけることができません。
「そうだ、これは電気鳩にたのもう」
 高一は、電気鳩を錠にぶつからせました。すると錠から、ぱちぱち火花がでたかと思うと、たちまちやけきれてしまいました。
 高一は、とびらに手をかけてひきました。とびらはすぐあきました。
「ああ、あいた」
 と、さけんで、高一は中にとびこみました。うすぐらいへやのすみに、ひげぼうぼうの日本人が手をしばられていました。
「あっ、お父さまだ」
 高一はなみだとともにかけよりました。
「おお、お前は――お前は高一か!」
 秋山技師は、よろよろとたちあがって、高一にからだをすりつけました。あまりの思いがけなさに、またあまりのうれしさに、あとはなみだばかりで言葉もでません。
「さあお父さま。すぐここをにげましょう」
「ああ高一、それはだめだよ。敵兵にみつかってころされるばかりだ」
「お父さま、大丈夫ですよ。ぼくは電気鳩をもっているんですから」
「えっ、電気鳩……」
「そうです。電気鳩さえあれば、どんな大敵がきてもだいじょうぶです。さあはやくにげましょう」
 高一が、父秋山技師をつれてトーチカを出たとき、ちょうどそこへ、大石大尉が陸戦隊をひきつれてかけつけました。大尉も決死のかくごで、中の島へせめこんできたのです。しかし、敵は電気鳩にやられてよわりきっていましたので、わけなく上陸できたそうです。
「高一君、じつにりっぱなはたらきをしたね、おめでとう。みんなでばんざいをとなえよう」
 トーチカの上に日章旗をたてると、大尉のおんどで、陸戦隊や、高一やお父さままで力いっぱい、ばんざいをさけびました。
 むこう岸にまっていたミドリが、どんなによろこんだか、申すまでもありません。
 電気鳩をうごかすふしぎなしかけは、秋山技師がしらべて、すっかりわかり、大へんめずらしいというので、いまも大切にしてあるそうです。



底本:「海野十三全集 第4巻 十八時の音楽浴」三一書房
   1989(平成元)年7月15日第1版第1刷発行
初出:「幼年倶楽部」大日本雄弁会講談社
   1937(昭和12)年8月〜1938(昭和13)年4月
※「羽ばたき!」と「海岸だ!」の二箇所のみでは、「!」は斜体となっています。
入力:tatsuki
校正:まや
2005年5月6日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全6ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング